2012年 02月 23日
船長ホイットフィールド、えらい。 |
鶴見俊輔は私の好きな思想家だが、「思い出袋」(岩波新書)を読んでいたら、いままで知らなかったジョン万次郎のエピソードが出てきた。
「ジョン万次郎は私の出会った人ではないが、私の記憶の中で際立った人である」と鶴見は言い、ジョン万次郎の簡単なプロフィールを紹介する。
「14歳で船に乗り込んだ万次郎少年は、嵐に遭って無人島に流され、アメリカの捕鯨船に助けられた。日本で小学校に行っていたわけではなく(小学校はまだなかった)、英語をどこかで習ったこともない。ただ、身ぶりで、自分たちは腹が減っているということを伝えた。その身ぶりは伝わった。捕鯨船はひきとってくれ、まず食事をあたえられずに水だけをあたえられ、食事はすこしずつ、やわらかいものからかたいものに変わった。万次郎はずいぶんケチだと思って怒ったが、あとになって、これは飢えた人間に対する親切な扱いだと知って、船長に感謝するようになる。長い航海の中で、船長は、万次郎にも船の仕事を手伝わせ、この少年が思慮深いことを知った。そして、彼ひとりを、アメリカ東部の自分の家につれてかえる」
と、ここまではよく知られている話だ。嵐に遭ったのは万次郎を含め土佐の漁師5人。
ここからがちょっとすごい。
「そこで船長ホイットフィールドは、自分の属している教会に彼をつれてゆくと、牧師は、有色人種を受けいれない。船長は、この教会から離れることにし、次々に別の教会をたずね、最後に受けいれてくれるところをさがしあて、一家ともその教会の会員となった。この教会めぐりは、万次郎につよい印象をあたえた。日本に戻ってから万次郎が手紙を書くとき、彼は船長に『尊敬する友よ』と呼びかけている。命の恩人に対してこのように呼びかけることは、ひざまずいて感謝するのが船長の心にそぐわないと知っていたからである。平等という理想を彼はすでに身につけていた」
船長ホイットフィールド、えらい。いつの時代にもこういうニュートラルなモノの考えた方のできる人間がいるということに、感動する。このあたりのことは「ジョン万次郎漂流記」(井伏鱒二)には書かれてない。
宗教の悪口を言うわけじゃありませんが、「ハワイイ紀行」(池澤夏樹)を読んでいたら、こんな記述にぶつかった。
「やがて宣教師がやってきて、サーフィンを禁止した。反キリスト教的だというのが理由だったが、イエス・キリストが紅海の岸でサーフィンをやったと聖書に書いてない以上、これもしかたがないことだ。いずれにしても彼らは土着のものをはじから禁止したのである」
もちろんその後、サーフィンは復活するんですけどね。なお、「ハワイイ」は誤字ではありません。池澤夏樹はそれについて「この島々本来の言葉でこの名は綴りのとおりにハワイイと呼ばれる」と書いている。「ハワイイ紀行」は、ハワイイ好きの人にとっては必読の書。とくにわれわれが抱いているフラ・ダンスのイメージは、見事にくつがえされます。
きょうは終日雨模様? 池を覆っていた雪が一部融けはじめました。
「ジョン万次郎は私の出会った人ではないが、私の記憶の中で際立った人である」と鶴見は言い、ジョン万次郎の簡単なプロフィールを紹介する。
「14歳で船に乗り込んだ万次郎少年は、嵐に遭って無人島に流され、アメリカの捕鯨船に助けられた。日本で小学校に行っていたわけではなく(小学校はまだなかった)、英語をどこかで習ったこともない。ただ、身ぶりで、自分たちは腹が減っているということを伝えた。その身ぶりは伝わった。捕鯨船はひきとってくれ、まず食事をあたえられずに水だけをあたえられ、食事はすこしずつ、やわらかいものからかたいものに変わった。万次郎はずいぶんケチだと思って怒ったが、あとになって、これは飢えた人間に対する親切な扱いだと知って、船長に感謝するようになる。長い航海の中で、船長は、万次郎にも船の仕事を手伝わせ、この少年が思慮深いことを知った。そして、彼ひとりを、アメリカ東部の自分の家につれてかえる」
と、ここまではよく知られている話だ。嵐に遭ったのは万次郎を含め土佐の漁師5人。
ここからがちょっとすごい。
「そこで船長ホイットフィールドは、自分の属している教会に彼をつれてゆくと、牧師は、有色人種を受けいれない。船長は、この教会から離れることにし、次々に別の教会をたずね、最後に受けいれてくれるところをさがしあて、一家ともその教会の会員となった。この教会めぐりは、万次郎につよい印象をあたえた。日本に戻ってから万次郎が手紙を書くとき、彼は船長に『尊敬する友よ』と呼びかけている。命の恩人に対してこのように呼びかけることは、ひざまずいて感謝するのが船長の心にそぐわないと知っていたからである。平等という理想を彼はすでに身につけていた」
船長ホイットフィールド、えらい。いつの時代にもこういうニュートラルなモノの考えた方のできる人間がいるということに、感動する。このあたりのことは「ジョン万次郎漂流記」(井伏鱒二)には書かれてない。
宗教の悪口を言うわけじゃありませんが、「ハワイイ紀行」(池澤夏樹)を読んでいたら、こんな記述にぶつかった。
「やがて宣教師がやってきて、サーフィンを禁止した。反キリスト教的だというのが理由だったが、イエス・キリストが紅海の岸でサーフィンをやったと聖書に書いてない以上、これもしかたがないことだ。いずれにしても彼らは土着のものをはじから禁止したのである」
もちろんその後、サーフィンは復活するんですけどね。なお、「ハワイイ」は誤字ではありません。池澤夏樹はそれについて「この島々本来の言葉でこの名は綴りのとおりにハワイイと呼ばれる」と書いている。「ハワイイ紀行」は、ハワイイ好きの人にとっては必読の書。とくにわれわれが抱いているフラ・ダンスのイメージは、見事にくつがえされます。
きょうは終日雨模様? 池を覆っていた雪が一部融けはじめました。
by ekimaeshokudo
| 2012-02-23 08:08
| 読書日記